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Dear Diary:1941年、12月7日:その当時、私は満六歳で、じきに七歳になろうというところだった。その年の夏の終わり頃、秋の気配が漂い始めたある晩、ベルモント・アヴェニューを祖母と二人で散歩に出かけた。左手の大きな空き地の向こうの水平線上に、大きな、とても大きな赤い月が見えた。こんな大きな月はそれまで見たこともなく、その後もついぞ見たことがない。祖母は、「戦争だわね、あの赤い月は、戦争のしるしだよ」と言っ...
Dear Diary:私の住んでいるアパートメントの近所に、アイスクリームの専門店が開店した。早速出かけてみると、金髪で素晴らしく美人の、若い女性店員が応対してくれた。注文の合間に、ご出身はどちらですか? と聞かれたので、元々は(ロシアの)サンクトペテルブルグの出身だと答えると、「そうなんですか、それじゃ、トルストイの『戦争と平和』ですけど、色んな翻訳が出版されてますよね、その中で、Richard Pevear と Larissa...
DEAR DIARY: 私はヴェトナム戦争の頃陸軍にいて、1960年代の終わりに1年間だけワシントンでラオス語の訓練を受けたことがある。当時、米国は公式にはラオスと交戦状態にあったわけではないので、私は1年間の集中的な語学研修を終えると、テキサスのフォート・フッド基地の語学専門家集団の一員として、残りの任期2年間を過ごすことになった。もちろん、いつでも必要があれば現地に送り込まれる手はずになっていたのだが、結局その...
Dear Diary:妹のエミリーと二人で一緒に、スタッテン・アイランドの修道院にいる叔母のところに遊びに行きました。叔母は修道女になって、もう45年も経つのですが私たちはいつも仲良しです。久しぶりの楽しいひと時を過ごして、あっという間に帰る時間になりました。お互いに肩を抱き合ってお別れのキスをしました。叔母はエミリーに向かって「アイ・ラブ・ユー、また遊びにいらっしゃいね」と言いました。いつも素直で愛らしい...
Dear Diary:ダウンタウン行きのバスの中でのこと。運転手がしきりに何か乗客と話をしている。どうやらその乗客は近いうちにイタリア旅行へ出かけるようだ。そしてバスの運転手はイタリアのことなら任せとけと言わんばかりの、陽気なイタリア系アメリカ人というわけだ。バス停にとまってその乗客が降りるときに、運転手は大きな声で念を押した、「この三つの街だけは忘れないでな、フィレンツェ、ベニスそしてミラノだ!!」次のバ...
DEAR DIARY:その日私はファイヤー・アイランドのフェリー・ターミナルを出て、満員のマイクロバスに乗り込んだ。車内には小さなハチが一匹入り込んでいてあちこち飛び回っていた。一人の女性客がひどくそれを嫌がって、神経質に手で払いのけながら運転手に向かって助けを求めた。「運転手さん、ねえ、運転手さんったら! ハチ(wasp)がいるわ、何とかしてちょうだい!」、すると、運転手が返事をする前に、一番後ろの座席に並ん...
Dear Diary: アメリカス通り(Avenue of the Americas)を歩いていると、交差点の赤信号でタクシーが停まりました。何気なくそちらに目をやると、ちょっと驚きました。驚いた理由その1:そのタクシーの運転手さんは女性だったその2:しかもその女性運転手さんはヒジャブ(Hijab)をかぶっていた私は思わず笑顔で親指を立てて挨拶しました。ロングスカートをはいて、束ねた髪の上に帽子を被った見知らぬ女性から挨拶されて、彼女...
DEAR DIARY:マジソン・スクェアー・パークの広場で耳にした会話。若い母親が外国語で4歳くらいの女の子に何やら話しかけている。それに対して女の子が英語で答えた。「ねえママ、スウェーデン語で話すのやめて! 英語で話してよ、ここはスウェーデンじゃないんだから、イギリスなんだから!」Timothy Tungーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー訳者注:女の子のセリフ、原文はこうです、「“M...
Dear Diary: 1番街にある60丁目のバス停でバスがやってくるのを待っていた時のこです。急行バスは何台か通り過ぎたのですが、私の待っているローカル・バスはなかなかやって来ません。私と同じようにバスを待っている女性がいて、時間通りにやってこないバスについて二人で不平を並べました。いくら待ってもバスは来ないので、とうとう二人ともあきらめて、一緒におしゃべりしながら歩くことにしました。72丁目あたりまで来た時に...
Dear Diary: レキシントン・アヴェニューにあるいつもの美容院に出かけました。そのお店の店員さんはアジア系の人が多いですが、中には明らかに中央ヨーロッパ系だと思われる店員さんもいます。それぞれがアクセントに特徴のある英語を話すので分かるのです。しばらくすると私の隣りの席にハンサムで若い男性客が座りました。その人の話す英語にもアクセントがあったので、店員さんがどちらのご出身ですかと尋ねると、イタリアから...
Dear Diary: つい先日、お医者さんの時間に遅れそうになって、タクシーに乗っていたときのことです。信号待ちで車を停めた運転手さんが私の方を振り向いて、私がアメリカ人かどうか、真面目な顔をして尋ねてきました。「そうです」と答えると今度はニューヨークに住んでるのかどうかと聞くのです。「ええ、ずっとそうです」と返事をすると。「それじゃあ、ちょっと聞くんだがね」とあらたまって3つ目の質問を始めました、「例のモ...
Dear Diary: 何ヶ月か前のことですが、裁判所から陪審員候補としての呼び出しを受けました。ついに来たか、と観念して指定された日時に裁判所に出かけて、丸三日間かけた審査の末、他の7人の女性とともに陪審員に任命されることになりました。とても暑くて飾り気のない陪審員用の狭い部屋で、皆一緒に、もう一日半過ごした後、いよいよ宣誓式を待つばかりというところでした。すると、その中に一人、ちょっと風変わりな人がいて、...
Dear Diary:私は最近、ジョギングを始めました。近くのマウント・プロスペクト公園の中に、陸上競技場のトラックのような大きなコースがあるので、そこを走ることにしたのです。ある日、いつものようにそのコースを走っていると、後ろから同じようなペースで走って来る人の気配に気がつきました。私は自分で言うのも変かも知れませんが、とてもフレンドリーな性格なので、いつもそんな時は笑顔で挨拶する事にしています。後ろを振...
Dear Diary:私と家内は、地下鉄に乗ってアッパーウェストサイドからペンシルヴェニア駅まで向かうところだった。車内は比較的すいていて、近くの席に座っていた男性が隣りの知人に話しかける声がよく聞こえた。彼は最近パリに旅行に行ったようで、その時にどんなヒドイ思いをしたかを声高に説明していた。こちらがフランス語がろくに話せないと分かると、フランス人というのはみんな本当に生意気で無礼(rude)な態度をとるのだと...
DEAR DIARY:つい先日のこと、バッテリー・パークの噴水のそばで、お昼のサンドウィッチを食べることにしました。暑い陽射しを避けて、木陰のベンチに腰かけていたのですが、噴水のそばでは、たくさんの子供たちが元気よく、駆け回ったり、水遊びをしたりして遊んでいました。頭にターバンを巻いた小さな男の子、おじいさんの手につかまって、ヨチヨチ歩く中国人の子、ジャマイカ人の一家はお母さんの歌声に合わせて、お父さんと子...
Dear Diary:しばらく前のこと、急ぎの用事があったのでタクシーに乗った時のことです。運転手さんはカリブ海なまりの英語を話す人で、ボブ・マーリーのような髪型をしていました。座席に座って私が行き先を告げると、運転席からこちらを振り向いて、「こいつぁ、オスカー・デ・ラ・レンタの香水だ、違うかい?」と言うのです。お見事! ピッタシカンカンでした。Martha Weimanボブ・マーリーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
DEAR DIARY: シーン:クィーンズの、とあるベーグル・ショップ。お店のテレビはスペイン語チャンネルに合わせてあって、ワールドカップの試合を放送している。カウンターの奥:若いアジア人の店員が二人、一人は男、もう一人は女。女の店員はテレビに見入っている。試合前の国歌斉唱に合わせて、右手を胸にあてている。私は国歌の演奏が終わるまでお行儀よく待った後、どっちの国を応援しているのか彼女に聞いてみました。「韓国で...
Dear Diary: この春のことだった。会社のモスクワ支店で働いているユーリが、今度、出張でカリフォルニアに行くのだが、途中、ニューヨークのJFK空港で9時間も、時間つぶしをしなければならないとメールをよこしてきた。その間にセントラルパークを訪ねてみたいのだが案内してもらえないだろうかいうのだ。もちろん、お安い御用だと引き受けて、プラザ・ホテルの前で待ち合わせることにした。二人でセントラル・パークの中を散...
DEAR DIARY: 私は、アッパー・ウェスト・サイドのスター・ラーニング・センターで、チューターのお仕事をボランティアでやっています。センターが提供する放課後の補助教育プログラムの一つで、担当する生徒と1対1で、宿題のお手伝いや、学校でよくわからなかったところのおさらいなどを手助けする仕事です。ある日、担当の5年生の男の子が、「今度、学校で僕たちのクラスみんな、ゲティスバーグに遠足に行くことになったんだ」と...
Dear Diary:アッパーウェストサイドの第75番小学校では毎朝授業の始まる前に「早起き読書会」をやっています。私は火曜日の担当で、ある日、低学年のグループの子供たちと一緒に本を読み終えると、子供たち同士でこんな会話が始まりました。「僕はニューヨークで生まれたけど、中国語が話せるんだ」「僕もニューヨーク生まれだよ。僕は日本語が話せる!」「私も生まれたのはニューヨークだけど、英語と、スペイン語が話せるわ!」...
DEAR DIARY: 9番街のスーパーに食料を買いに行ったとき、パコールをかぶった男性がいるのに気がつきました。パコールというのはアフガニスタンやパキスタンなどの人々に愛用されている伝統的帽子で、アル・カイーダによって暗殺されたアフガニスタンの英雄、アハマド・シャー・マスードがいつもかぶっていた、あのトレードマークの帽子のことです。私の友人の一人がこの帽子をひどく欲しがっていて、あちこち探して手に入れようと...
Dear Diary: ベッドから起き上がってパジャマを脱ぐ ーーー グアテマラ製ショーツ ーーー ブルックス・ブラザーズの輸入品Tシャツ ーーード ミニカバスローブ ーーー パキスタンスリッパ ーーー 中国コーヒーを一杯 ーーー コロンビアズボン ーーー 中国ゴルフシャツ ーーー ペルー靴下 ーーー 韓国ベルト ーーー ウルグアイブルゾン ーーー 韓国Good Morning America!! さあ、車でモールに出かける。今日はまたどんな国に出会え...
DEAR DIARY: 大急ぎでセントラルパークウェストに行く用事があって、通りかかったタクシーをつかまえて飛び乗りました。タクシーに乗るといつもそうするのですが、運転手さんの写真と名前が書いてある乗務員証に目をやりました。ファーストネームはちょっと読み方がわからくて、ラストネームはシェルパ(Sherpa)と書かれていました。かわった名前なので、どう呼べば失礼にならないかちょっと迷いました。何気ない風を装って、「あ...
Dear Diary: 通勤途上の常連客でにぎわういつものコーヒーショップに立ち寄った。カウンターの向こうにいる若い店員は慣れた調子で次々に注文をさばいていく。お客の方も同様で、あれこれ何を注文しようか迷う客などいない。双方のやりとりは無駄がなく、小気味いい。「お次、ご注文は?」、「バターロールとブラック」、「はい、次」、「ライト二つとスイート」等々・・・そこへ、建設現場の仕事着を着た若者の順番がまわってき...
Dear Diary:日曜日の朝、ワインを買うために、一番街のいつものお店まで、主人が歩いて向かっていた時のことです。一台の車が近づいてきて、主人のそばに停まると、中から「失礼ですが」と声をかけてきました。何のことかと思っていると、「そのコートはもしかするとイタリア製ですか?」と尋ねられたのです。主人は私が選んであげたゴージャスなラクダのコートを着ていたのですが、前のボタンを外して内側のラベルに書かれている...
Dear Diary:過ぎ越しの祝い(ユダヤ教の祭り:Passover)の晩餐用に、ブリスケット(牛肩のばら肉、Passoverの定番)をスーパーマーケットに買いに行きました。ところがそこのお店ではもう売り切れていて、店員さんに尋ねると、明日が配送の日なので、明日また来てくれとのとことでした。とてもがっかりしてその場を離れようとした時、お年をめした男性がブリスケットを持って、返品しにきました。その男性が言うには、奥さんがも...
Dear Diary:何年か前のこと、私は子供たちと一緒に、ミッドタウンのフランス語書籍の専門店(決して安いお店ではありません)で、あれこれと棚をながめていました。そのとき目にした光景です。手にした本の値段を聞いてびっくりした女性客が、店員に向かって、「本気なの? パリで買えばもっとうんと安いわよ!」にこりともせずに店員が返した言葉、「Bon voyage, madame.」Kate Boyce Sampson...
Dear Diary:それは2年前のことだった。私はハロウィーンの夜の乱痴気騒ぎを避けるため、どこか静かなレストランで食事をとろうと思い、コロンバス・アベニューにあるインド料理店に出かけた。ところがそうはうまくいかなかった。ハロウィーンとは無縁だと思ったこのインド料理店にも、キャンディーやスナック菓子を求めて、次に次に子供たちのグループが訪れるのだ。お店の方でもそれは織り込み済みだと見えて、お菓子をたくさん入...
Dear Diary:何年か前の五月のお話です。結婚したばかりの私たちはハネムーンに出かけるためにケネディ空港に向かう準備をしていました。私たちのハネムーンはアルメニア、マレーシアそして台湾と、それぞれの家族を訪問してまわる、ちょっとした世界一周旅行なのです。そして、今回の旅は私たちにとって、ニューヨークでの生活に別れを告げる旅でもありました。ハネムーンが終わると私たちはフィラデルフィアで新しい生活を始める...