Dear Diary:
5月2日の夜、はるばるニューヨークへやってきた友人と早めのディナーを済ませた後、私が長年暮らしているアッパーイーストサイドの街並みを案内することにした。通りの角を右へ左へと曲がって夕暮れ時の静かな雰囲気を楽しんでいると、突然、大勢の若者たちが集まって歓声をあげているのに出くわした。警察のバリケード・ラインの後ろにひしめき合って、五番街の通りをまたいだ向こう側を目がけて手を振って大騒ぎしている。通りの向かい側にはメトロポリタン美術館の正面玄関がある。そこへピカピカに磨き上げられた大型SUVが(窓は勿論スモークガラスだ)次々に現れては玄関前に横付けしていく。入り口に続く階段には赤い絨毯が敷き詰められている。
毎年、ハリウッドのセレブ達がこの日のための選りすぐりの衣装をお披露目することで有名な、メトロポリタン美術館のイベント、
「コスチューム・インスティチュート・ガラ」だ。車から降りてくるセレブ一人ひとりの名前を、たとえ知らなくても心配ない。こちら側の群衆の中の誰かが、必ず大きな声で名前を叫んで教えてくれる。私の友人はこの光景に少し驚いた様子でもあり、眉をひそめているかのようでもあったので、私は精一杯の説明を試みた。このいかにも贅沢で、きらびやかな光景は、しかし、ただそれだけじゃない。これにはちゃんとした意義がある、そういうイベントなんだと。このイベントの参加費用は一人2万5千ドルと言われている。合計すると100万ドル以上にもなるそうだ。このイベントで上がった収益は全部美術館に寄付されて、豪華なパーティーの費用を差し引いた後、美術館のコレクションに加える貴重な衣装(ちょうど今夜のゲストたちが身にまとっているような)の購入代金にまわされたりするというわけだ。
私たちはその場を離れてまた散歩を続けた。何度か角を曲がり、76番通りまで来た時、また別の人だかりが目に入った。それはちょうどセント・ジョン・バプティスト教会のまん前だったので、結婚式の人だかりかと思った。
ところが、近くまで歩いてよく見てみると、それはほとんど幽霊のような人相、身なりの人々の行列であった。教会の正面に停まった白いバンの後ろに用意したサンドウィッチとミルクを無料で配っているのだ。その場の様子は静寂に包まれて、秩序だっていて、皆、黙々と指示に従っているというものであった。そこにはとてもシンプルな、飾り気のない、感謝の気持ちというものが漂っていた。つい先ほど、ここからさほど離れていない場所で見かけた、これ見よがしの裕福さと、それをとりまく喧噪とは、際立った対照をなしているものだった。
私の友人も、この二つの人だかりの対比に心を動かされたのだろう。私の腕に手をかけて、そっとささやいた。「ええ、分かったわ、あれから何年もずっと、あなたが今でもここに住み続けている理由が、分かったような気がするわ」
Shaun Considine
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訳者注
最後のところ、原文はこうです、
「My friend, also sensing the difference, touched my arm and said softly: “Yes, I can see, after all these years, why you still live here.” 」
実に味わい深い、含蓄に富んだセリフではありませんか。このご両人の関係というのは一体どういうものだったのでしょうか? もっと若かった頃、かつて二人の間に一体何があったのか、なかったのか・・・。
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