Dear Diary:
その日、私と妻の二人はグリニッジ・ヴィレッジの友人を訪ねて楽しい夕食時を共に過ごした。アパートメントへの帰り道、通りを歩いていると、夜空に稲妻が走った。急に風が強くなり、ついには土砂降りの雨が降り始めてきた。私たち二人は肩を寄せ合って大慌てで駈け出した。何とか雨宿りの場所を見つけて夜空を見上げていると、閉じたままの傘を持って、なぜだか知らないが嬉しくてたまらないといった様子の若い男が通りかかった。土砂降りの雨に打たれながら、両腕を高く上げて歓喜の声をあげているのだ。そのとき、その若者が、雨宿りしている私たちに気が付いた。スタスタとこちらに近づいて来ると、持っていた傘を手渡しながら、「僕、これ、要らないんで」と言った。そしてそのまま「雨に唄えば」のジーン・ケリーのような軽やかさで飛びはねながら夜道を去って行くのだった。
私たちはその傘のお陰で、そんなにひどく濡れることもなく、無事にアパートメントまでたどり着くことができた。アパートメントの玄関前には、先ほどの私たちと同じように雨宿りしている人たちが何人か集まっていた。 私の妻はその中の若いカップルの二人に、もらった傘を手渡した。二人はとても喜んで、夜の雨の中に消えて行った。
Matt Breitenbach

Gene Kelly 「
Singin' in the Rain」

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