Dear Diary:
ドイツ出身の私の夫は週に一回セントラルパークで観光客の案内をするボランティアをやっています。6月のはじめ、いつものようにセントラルパークに出かけた夫は、ベルリンからやってきたという若い二人のカップルを案内していました。かれこれ1時間も公園内を巡り、ずい分話もはずんだようです。夫は自分たち夫婦はもう42年間も結婚生活を続けているんだということまで話したそうです。
そろそろ時間がきて、もう行かなければならないという頃になって、若い二人は夫にちょっと待っていて下さいと頼んでその場を離れました。何やら二人で相談をしていましたが、やがて戻ってくると夫に、ニューヨークを離れる前に、是非このセントラル・パークで結婚式を挙げたいのだけれど協力してもらえないだろうかとた言ったのだそうです。公園の中でそれに最もふさわしい場所を選ぶことと、42年間も連れ添った夫婦である夫と私の二人に、証人として結婚式に出席してもらえないかということを頼まれたというわけです。
どちらもおやすい御用だと夫は請け合って、4日後にセントラル・パークのレディーズ・パヴィリオンのそばの池のほとりに集合しました。急に思い立った話とは思えないほど準備は万端整っていました。新郎はタキシード姿で、新婦は白のサテンのドレスに身を包み、ホテルから来る途中で買ってきたという真っ赤なバラのブーケを手にしています。二人はちゃんと婚姻証明書と結婚指輪を用意していて、式を執り行うのに必要な聖職者、ラビのシーゲル師まで伴っていました。パソコンを使ってグーグル・サーチで見つけたんだそうです。さらに、若い女性の写真家(バルセロナ出身と言ってました)とその助手兼ボーイフレンドのインド人青年(ガンジーという名前です)も一緒でした。
ラビのシーゲル師が、ドイツ語はあまりできないので、英語か
イディッシュ語で式を行いたいと言うと、二人は、それじゃあイディッシュ語でお願いしますと答えました。式は簡素なものではありましたが、素晴らしい結婚式になったと思います。私はラビと一緒にユダヤ教の聖歌を歌いましたので、ささやかながら音楽もついた式でした。
こうしてセントラル・パークの一画で、三人のドイツ人プロテスタントと二人のアメリカユダヤ人、そしてカタルーニャ出身のカトリック教徒とムンバイからやってきたヒンズー教徒が集まって、36度を超える暑さの中、1時間以上もかけて、若い二人の愛の誓いを見守ったのです。無事に式が終わってラビが帰った後、私たちみんなは新郎新婦が泊まっているホテルに招かれて、シャンパンでお祝いしました。
Dona Munker


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訳者注:
登場人物についてちょっとまとめてみましょう。
夫:ドイツ出身、プロテスタント
妻(私):ジューイッシュ
ラビ:ジューイッシュ
新郎・新婦:ドイツ人、プロテスタント
写真家:バルセロナ(カタルーニャ州)出身、カトリック
助手兼ボーイフレンド:ムンバイ(インド)出身、ヒンズー教
まず注目すべきは42年間も連れ添っているというこのご夫婦がプロテスタントとジューイッシュのご夫婦だということです。次に新郎新婦は二人ともプロテスタントであるにもかかわらず、ユダヤ教のラビに式の司祭を依頼していることです。しかもこのラビはイディッシュ語ができるということでドイツ・ポーランド系のユダヤ人である確率が高いとも考えられます。もちろんこれは単にネットで急に探した中で何とか話がつけられた先がたまたまそうだったということに過ぎないかもしれません。写真屋さんの二人も含めて、これはもういかにもニューヨーク、多様性の街ニューヨークならではの心温まるエピソードだと思います。
こちらのエントリーも併せてご覧になって下さい。
「初めての異文化体験」
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