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若き日に学んだ教訓

Dear Diary:

今からもう50年前の話だ。大学を卒業して就職したばかりの頃で、セントラル・パークの東側の通りにあったオフィスに、毎日車で通っていた。車は近所の駐車場に停めるようにしていたのだが、その駐車場には一人の年寄りの係員がいて、特に何をするわけでもなく、じっと椅子に腰掛けていた。

私は毎朝その老人と顔を合わせるたびに、「ハロー」と愛想よく挨拶をしたが、老人はいつも知らん顔で、返事すらしなかった。よほど内気なのか、単なる意地悪ジジイなのか、判断しかねたが、私は半分意地になって愛想のよい挨拶を一方的に続けた。そうして数ヶ月たった頃ようやく、しぶしぶながら、小声で返事が返ってくるようになった。さらに一年が過ぎる頃には、天気のことや、交通渋滞の様子などについて、二言三言、言葉を交わすようになった。

その後私は職場が別の場所に変わったので、その駐車場は利用しなくなった。もちろんその老人のことなどすっかり頭から消え去った。それから5,6年経った後のことだ。たまたま近所に用事があって、その駐車場に車を入れた。老人は以前と変わらぬままそこに居た。車から降りて出口に向かうと老人が駆け寄ってきて私の肩を両腕で抱きとめた。私の姿が急に見えなくなってずい分心配していた、元気そうで本当に安心したと、心から嬉しそうな笑顔で言うのだった。

このことがあって以来、私は、人のことを軽はずみに判断しないようにと、心がけたものだ。よい人間関係というのは、それを築き上げるまでに、非常に長い時間がかかる場合があるからだ。

Alex Markovich

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訳者注:
最後の一文、原文はこうです、「I've tried ever since not to judge people hastily. Some relationships take time to build.」

今から50年前といえば、1960年代、いわゆる「公民権運動」が真っ盛りの頃です。そういう時代背景の中で、マンハッタンのオフィスに車で通う大卒の若者と、一日中、駐車場で番をしている老人との間のエピソードです。そうとは書いていませんが、恐らく老人は黒人で、若者は白人でしょう。こういう想像をめぐらしながら、改めて最後の一文を読み直すと、その味わい深さが増してくるように思えます。
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