Dear Diary:
それは今から数年前のこと、初めてニューヨークにやって来たその一年目の年のことでした。ミッドタウンのとある地下鉄の駅の構内で階段をのぼっていた時、階段の上に人の靴が底を見せて投げ出されているのが見えました。さらに一段づつ階段をのぼると、ジーンズを履いた長い脚が見えてきて、踊り場の床に一人の女性が目をつぶって床に横になっている姿が目に入りました。
そこは駅の構内ですから、大勢の人が通ります。けれど誰も気にとめる様子がなく、立ち止まりもしません。その女性は30代くらいの年格好に見えましたが、ホームレスには見えませんでした。履いている靴は真新しいスニーカーだし、シャツはきれいでシワもなく、裾はきちんとジーンズの中にしまい込まれています。
私はロシアからこちらへやってきたばかりだったので、こういうときニューヨークではどのように振る舞うべきか、よく分かっていませんでした。でも、とにかくこのまま見過ごすことはできないと思ったので、立ち止まって、女性に近づいて、小声で声をかけました。「どうかしたんですか?大丈夫ですか?」 その人は片目だけうっすらと開けて、少し口元に笑みを浮かべながら、「ええ、大丈夫。ちょっと休んでるだけだから」と答えました。
私はその返事を聞いて、また歩き始めることにしました。すると、しばらく歩いて角を曲がろうとしたとき、後ろから、「ねえ、ちょっと!」と大きな声がしました。振り向くとさっきの彼女です。もう立ち上がって(スラっとした背の高い女性でした)こちらに手を振っています。「どうもありがとう!」 、私がうなづくと、「じゃあね!」と言って、彼女は人混みの中へ消えて行きました。
Inna Stavitsky


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訳者注:
最後のところの情景、原文はこうです、「before I went around the corner, I heard "Hey!"
I looked back, and there she was - tall and slim, waving her hand. "Thank you!" she said. "Take care!" Then she disappeared into the crowd.」
ニューヨークの「孤独」については、以下のエントリーもご参考に、
「都会の孤独」「ニューヨーカーになるには」
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