April 12, 2012
A Fire and a Tradition
By TOM CAYLER
Dear Diary:
うちの近所で火事があった。火元のビルは通りの向かい側にあって、一階のデリのオーナーはアリという男だ。アリはそのビルの上の階に奥さんと5人の子どもと一緒に暮らしていた。
翌朝、焼け跡も無残なデリに立ち寄ってみた。一家は無事だろうかと心配だったし、何か力になれることがあるかもしれないと思った。アリは元気だった。一家はとりあえず近くの知人のアパートメントに身を寄せているという。今後の住まいについては赤十字が提供してくれると言われたそうだ。しかし場所が離れたところなのだという。アリは子供たちを転校させたくないんだと言って頭を振った。ビルの地下のボイラーから火が出たとき、彼は家にいなかったと言った。
「女房が子供たちと一緒にいたんだ。管理人がドアをどんどん叩いて、逃げろ!と叫んだんだな。女房は子供たちと一緒に階段を駆け降りたのさ。それで玄関から道路まで出てきた時に、女房のやつ、はっと気がついたってんだ。な、ほら、あれだ、あれだよ」
アリは言葉をとめて両手を頭の上にかざし、そのまま耳から肩へと降ろすしぐさをした。「女房のやつ、あれをな、分かるだろ、つけるのを忘れてたってわけさ。」
ああ、分かる。例のスカーフのことだ。ベールと言った方がいいのか、どのみち正式な名前は知らない。
「それでな、そいつをつけ忘れてるってことに気がついた女房はだな、そっから引き返してまた階段を登り始めたってんだ。おまけに子供たちまでみんな後から女房について行こうとしただとよ。消防士が引っつかまえて下に連れ戻してくれたから助かったんだ。まったくなんてこった。俺はな、言ってやったんだよ。俺たちゃ今、アメリカに住んでんだってな。あんなもん、な、別にいりゃしないんだって」もう一度両手を頭の上から降ろすジェスチャーをして、アリは言った。「な、そうだろ、
火事だったんだぜ!」

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訳者注:
人前では顔を見せないというイスラム圏の女性が被るベール(スカーフ?)にはいくつかの種類があります。ご興味のある方はこちらのエントリーをご覧ください。
「ヒジャブ」
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